Angélique Mariet

Interprète, traductrice et autrice
Je partage mon amour pour le Japon sur internet depuis plus de 10 ans.

フランスの猛暑とエアコン不足の現実

フランスの猛暑についてのニュースを見て、「そんなに暑いなら、どうしてエアコンをつけないの?」と思った方もいるかもしれません。

日本では、夏にエアコンを使うことはごく普通ですよね。家庭だけでなく、電車やお店、学校、病院など、社会のさまざまな場所で冷房が使われています。一方、フランスの多くの地域では、40度近い暑さが何日も続くことを、これまで十分に想定してきませんでした。

もちろん、フランス人が暑さに強いからでも、全員がエアコンを嫌っているからでもありません。今起きているのは、単に「今年の夏は暑い」という問題ではなく、これまでの気候を前提に作られてきた住宅や公共施設、交通機関、働き方が、急激な変化にまだ対応しきれていないということなのです。

フランスの家庭にエアコンが少ないのはなぜ?

race competition in the streets of france
Photo by Guillaume Hankenne on Pexels.com

ADEMEの2025年の調査では、フランスで冷房設備のある家庭は全体の24%、つまりおよそ4世帯に1世帯です。その中には、一部屋にしか冷房がない家庭も含まれているため、「エアコンがある」といっても、家全体を冷やせるとは限りません。この背景には、フランスの住宅が長い間、夏の暑さよりも冬の寒さへの対策を重視してきたことがあります。

もちろん、古い建物の中には、厚い石壁によって比較的涼しさを保てるものもあります。しかし、屋根の断熱が不十分な最上階の部屋や、大きな窓から直射日光が入る住宅、外付けの日よけがない建物では、昼間にたまった熱が夜になってもなかなか抜けません。

(私自身も古いアパートの最上階に住んでいます。日中に屋根や壁にたまった熱が残り、外の気温が下がっても、夜遅くまで部屋の中が暑いままです。この記事も本当は動画にする予定でしたが、部屋が暑すぎて撮影を諦め、文章でお伝えすることにしました(;´・ω・))

「じゃあ、今からエアコンを付ければいいじゃない?」と思うかもしれませんが、フランスでは、それも簡単ではありません。

賃貸住宅の場合、建物に穴を開けたり、外壁に室外機を設置したりするには、大家の許可が必要になることがあります。集合住宅では、外壁や屋根、バルコニーなどが共用部分にあたるため、共同所有者総会の承認が必要になる場合もあります。さらに、室外機によって建物の外観が変わる場合は、自治体への事前申請を求められることがあります。歴史的建造物や街並みを保護している地域では、設置場所や機器の外観にも制限があります。

もちろん、エアコンは健康や命を守るために必要な設備です。特に、高齢者や持病のある人、小さな子どもがいる家庭では重要な役割を果たします。ただ、機器の購入費、工事費、電気代もかかるため、すべての家庭が簡単に選べる方法ではありません。そして、あらゆる建物にエアコンを追加するだけでは十分ではありません。日差しを外側で遮り、屋根や壁を適切に断熱し、夜の涼しい空気を取り込みやすくする。そのうえで、必要な場所に効率のよい冷房を導入することが大切です。

性能の低い機器は多くの電力を消費し、室外機から出る熱は周囲の温度をさらに上げます。冷房だけに頼るのではなく、建物そのものの改修が欠かせません。

暑さへの対応が遅れているのは、住宅だけではない

photo of train in railway station
Photo by Adrien Olichon on Pexels.com

同じ問題は、学校や病院、公共交通機関にも見られます。

フランスの学校には、大きな窓から直射日光が入る教室や、外付けの日よけがない校舎、夜間の換気が難しい建物が少なくありません。しかし、学校施設の管理や改修を担当するのは、国ではなく自治体です。公立の小学校は市町村、中学校は県、高校は地域圏が、それぞれ建物の維持や改修を担当しています。そのため、工事の進み方や確保できる予算は自治体によって異なります。

教育省が2026年に発表した猛暑対策でも、まず暑さの影響を受けやすい学校を調査し、優先順位をつけて改修する方針が示されています。それまでの対応としては、日差しの少ない教室を使う、夜間に換気する、扇風機やミストを利用する、冷房のある部屋を一時的な避難場所として使う、といった方法が挙げられています。

病院では手術室などには専用設備がありますが、一般病棟や待合室まで冷房されているとは限りません。病院は患者を受け入れながら24時間機能し続けなければならず、大規模な工事を一度に行うことが難しい施設です。病院の改修では、冷房に加えて、換気や衛生管理、感染症対策、非常時の電力供給まで考える必要があります。

そのため、建物全体を一度に冷房化するのではなく、体の弱い人が一定時間過ごせる「涼しい部屋」を優先して設ける方法も取られてきました。高齢者施設には少なくとも一つの涼しい部屋を用意することが求められていますが、それはすべての居室に冷房があるという意味ではありません。フランスの医療の質を評価するHaute Autorité de santéも、冷房設備が不十分だった病院で、猛暑の際に患者の脱水症状が悪化した事例を紹介しています。

交通機関の場合、長距離列車と都市交通で状況が異なります。TGVやINTERCITÉSなどには冷房がありますが、地下鉄やバスでは、路線や車両によって設備に差があります。一方、都市部の電車、地下鉄、バスでは、古い車両と新しい車両が同じ路線網で使われているため、設備の有無や性能が路線によって異なります。

たとえばパリの地下鉄では、2024年時点で車両の約44%に「冷却換気」が導入されていました。これは一般的なエアコンとは異なり、外気より数度低い空気を車内に送る仕組みです。外が非常に暑い日には、設備が動いていても車内を十分に涼しく感じられない場合があります。

では、なぜすべての地下鉄に一般的なエアコンを設置しないの

地下鉄の車内を強く冷やすと、機器から排出された熱がトンネルや駅にたまり、ホームや地下空間をさらに暑くする可能性があります。そのため、パリの地下鉄では、消費電力と排熱を抑えられる冷却換気が採用されています。古い車両は段階的に交換されますが、鉄道車両は長期間使用されるため、すべてを短期間で入れ替えることはできません。新しい車両の導入は、2030年代までかけて進められる予定です

さらに、猛暑は、鉄道設備そのものにも影響します。高温によって線路や電気設備、車両の機器に不具合が起きる危険が高まると、安全のために列車の速度を落とすことがあります。遅延や運休が発生し、冷房のある列車でも長時間停車すれば、車内の温度が上がる可能性があります。

つまり、「乗る列車に冷房がある」ということと、「ホテルから目的地までずっと涼しく移動できる」ということは同じではありません。地下駅のホーム、屋外のバス停、乗り換え通路などには、冷房がない場所も多いからです。

住宅、学校、病院、交通機関はいずれも、長い年月をかけて作られてきたものです。急激に変化する気候に合わせて改修するには、設備を一つ追加する以上の時間と費用が必要になります。

「水を飲めばいい」「自分でエアコンを買えばいい」では解決できない

elderly man walking in paris street scene
Photo by Ramon Karolan on Pexels.com

忘れてはいけないのは、猛暑の影響がすべての人に同じように現れるわけではないということです。高齢者、乳幼児、妊婦、持病や障害のある人、社会的に孤立している人、住まいのない人、収入が低く十分な対策を取れない人は、特に大きな影響を受けます。屋外や高温になる場所で働く人も、熱中症だけでなく、疲労や集中力の低下による事故の危険にさらされます。自宅に冷房を設置できる人、暑い時間帯には仕事を休める人、涼しい場所へ移動できる人がいる一方で、そうした選択肢を持たない人もいます。だから、「水を飲めばいい」「自分でエアコンを買えばいい」という個人の対策には限界があります。

住宅や学校を改修し、外付けの日よけや換気設備を整える。街路樹や日陰を増やし、無料で水を飲める場所や、誰でも利用できる涼しい空間を用意する。病院、介護施設、交通機関などが、厳しい暑さの中でも機能し続けられるようにする。
仕事の面でも、危険な暑さの日には、勤務時間や作業内容を変更し、休憩を増やさなければなりません。フランスでは2025年、暑さから労働者を守るため、リスクの評価、勤務時間の調整、十分な冷たい水の提供など、雇用主に求められる対策が強化されました

エアコンは必要な対策の一つです。しかし、それを買える人だけが自分を守る社会ではなく、住んでいる場所や収入にかかわらず、安全に過ごせる仕組みを作ることが必要なのです。

猛暑は、天気だけでなく政治と予算の問題でもある

Média : Vert | © Thomas Samson/AFP

熱波そのものは自然現象ですが、気候変動によって、その発生回数、長さ、強さは増しています。

温室効果ガスをどこまで減らすのか。
住宅や学校の改修にどれだけ公的なお金を使うのか。
どの地域から街路樹や日陰を増やすのか。
危険な暑さの中で働く人を法律でどう守るのか。

こうしたことを決めるのは政治です。

フランスには、自治体による公共施設の改修、街の緑化、洪水や猛暑への対策などを支援する「Fonds vert」、日本語にすれば「緑の基金」があります。国が新しい事業に使うことを約束できる予算枠である「autorisation d’engagement」は、2024年には約25億ユーロありました。しかし、2026年予算をめぐる資料では、約6億5,000万ユーロまで減少しています。「実際にその年に支払われる金額」とは異なる予算上の指標ですが、自治体が新たな長期事業を計画するための余地が大きく縮小したことを示しています。

その一方、2026年予算案に付随する政府の「グリーン予算」報告書では、約81億ユーロの支出が、環境に不利な影響を与えるものとして分類されています。これは、それらの支出に社会的な意味が一切ないということではありません。政府が定めた基準に照らし、気候、生物多様性、水、資源、汚染などのいずれかに悪影響があると評価された支出です。それでも、社会が何にお金を使い、どの問題を優先するのかが、政治的な選択であることに変わりはありません。

影響は都市部に限らず、水資源や農業、生態系にも広がります。猛暑は干ばつや水不足、森林火災、農作物の減収、家畜への負担、川や海の水温上昇にもつながります。住宅、健康、交通、水、農業、生態系を別々の問題として扱うのではなく、社会全体を新しい気候に適応させる必要があります。

Météo-Franceの予測では、フランス本土の気温が産業革命前と比べて2.7度上昇する2050年ごろには、熱波の日数が1976~2005年と比べて約5倍になる可能性があります。熱波が発生する時期も長くなり、初夏から9月ごろまで続くことが予想されています。つまり、毎年の猛暑を一時的な「異常事態」として乗り切るだけでは、もう十分ではないです。住宅、学校、病院、仕事、交通、そして街の作り方そのものを、新しい気候に合わせて見直さなければならないのです。単なる天気のニュースではありません。

夏にフランスへ旅行する方へ

people in front of the old stock exchange building in lille
Photo by Matteo Angeloni on Pexels.com

ここまで読むと、夏にフランスへ行くのが少し怖くなった方もいるかもしれません。必要以上に心配することはありません。暑さを想定して準備し、無理のない予定を立てれば、夏のフランス旅行も十分に楽しめます。ただし、「ヨーロッパの夏はいつでも涼しいね!」とは考えず、次の点に注意してください。

1) ホテルに冷房があるか確認する

予約ページに「climatisation」や「air conditioning」と書かれているかを確認しましょう。同じホテルでも、冷房のある部屋とない部屋が分かれていたり、ロビーなどの共用スペースにしか冷房がなかったりする場合があります。

2) 天気と交通情報を毎朝確認する

Météo-Franceの気象警戒情報は、緑、黄色、オレンジ、赤の4段階で表示されます。オレンジや赤の「canicule」が出ている日は、長時間の屋外観光を避け、予定を柔軟に変更してください。

猛暑の日には、鉄道の遅延や速度制限、車内の冷房故障が起きる可能性もあります。SNCF、RATP、各都市の交通機関の公式アプリやウェブサイトも確認しましょう。

3) 暑さ対策グッズを準備する

フランスでも日焼け止めや帽子は買えますが、日傘、UVカットの服、アームカバー、携帯扇風機、冷却タオルなどは、日本ほど選択肢が豊富ではありません。普段から使っているものを日本から持参すると便利です!

4) 体調がおかしいと感じたら、予定を中止する

自分で水を飲めない、意識の状態がおかしい、呼びかけへの反応が弱い、強い体調不良がある場合は、フランスの救急医療番号「15」、またはヨーロッパ共通の緊急番号「112」に連絡してください。

フランスの夏は、美しい景色、長い夕暮れ、野外イベントを楽しめる季節でもあります。ただ、かつての「涼しいヨーロッパの夏」というイメージだけで旅行するのは、少し危険になってきました。最新の天気と交通情報を確認し、その日の暑さに合わせて予定を変え、十分な水分と休憩を取る。必要な準備をしておけば、暑い日でも安全にフランス旅行を楽しむことができます。

En savoir plus sur Angélique Mariet (TOKIMEKI) | Traductrice & interprète japonais–français

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